君がくれた世界

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「お試し期間って……」 「これでも、夫婦のいろんな問題には直面してるんだから。でも、安心してよ。俺の方から村瀬さんに愛想尽かすことは無いよ。ほら、次の電停が近いよ。ちゃんと仕事はしないと」  まだ状況が把握しきれていない村瀬さんが前を向く。その広い制服姿の背中を見上げる。今日の電車は車掌台に背凭れの無いタイプだ。  俺は邪魔の無い広い背中に頭をつける。その様子が判ったのか、少し村瀬さんの体が揺れたけれど、そのまま左肩も凭れ掛からせた。  終点の宮島口に着くまで村瀬さんがこっちに振り返る事は無かったけれど、ちょっと嬉しそうな雰囲気だったのは俺の勘違いじゃないはずだ。
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