君がくれた世界

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 近づく彼の顔を見蕩れる。一時でもその表情を見逃したくなくて、目を開けたまま優しいキスに応じた。何度も啄まれて、下唇を食まれて、湿った舌で舐められて。  蕩ける熱に浮かされて、ふうふうとキスに応じていたら、気がついたときにはソファに押し倒されていた。  村瀬さんの裸の背中に手を廻す。素肌に触れた手のひらは、しっとりとした肌の下の厚い筋肉の動きまで感じ取っていた。  重なり合っていた唇を離されると、そのまま耳たぶを口に含まれる。湿った水音が直接耳に響いて、ぞくりと背中に電流が走った。粗い吐息に頭が、ぼうっとする。  このまま、どこかへ流されそう……。  そう思った時、村瀬さんがゆっくりと俺から上体を離した。 「……初めて見るな。カズトのそんな顔」  俺は今、どんな顔を彼に見せているんだろう。 「俺も、村瀬さんのそんな顔、初めて見ているよ……」  これは、どんな表情? 「初めて見るから、どんな感情なのか分からないよ。だから……」  俺は彼に向かって大きく両手を拡げる。 「もっと見せて。もっと教えて。もっと……、あなたのいろんな顔が見たい……」  瞬間、村瀬さんの顔が苦しそうに歪む。でも、それは本当に一瞬で、すぐに強く抱きしめられると熱く唇に噛みつかれた。  息苦しくて、思わず開けた唇の間から村瀬さんの舌が差し込まれてきて、それだけで意識が飛びそうになった。体の深い所から覆い尽くされそうな熱が、肌の表面に向かってせり上がってくる。  熱くて、もどかしくて、泣きそうで。  思わず強くしがみついた俺を、村瀬さんはぐいっとソファから力強く抱き上げた。 「あっ!」  あの時と同じお姫様抱っこ。 「カズト、今夜は……。一緒のベッドでもええじゃろ?」  髪に口を寄せられて、低い声で優しく囁かれて……。  こくんと頷く代わりに、彼の肩に両手を廻してぎゅっと強く抱きついた。
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