【クリスマスなんていらない】

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「乾杯」 グラスをぶつけ合う音が聖夜に響く。 小さな音は耳に余韻を残す。 「……金魚がいないから静かだね」 「だな。俺ももうあの音があった方が自然かも」 ……あの音…… というのは、金魚を飼っている水槽の酸素ボンベのモーター音だ。 あれ以来、二人で大切に飼っているが、 こっちが見守っているのか、見守られているのかたまに考えてしまうことがある。 あの金魚は二人にとって癒しのようなものだった。 目の前のグラスを見つめると、シャンパンの炭酸が金の鎖のように気泡をつないでいる。 私はそのグラス越しにガクちゃんを見た。 「ねえ、ガクちゃん…… 水槽の中にいるみたい……」
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