最果ての駅

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私たちの町には、不思議な噂があった。 この街には“あっち”側へ繋がる「さよなら駅」がある、と。 今の私は、そんな都市伝説とも大差ないような噂にさえ縋りたかった。流れてくるものが藁でも泥でも、何でもいいから掴みたかった。 私は、客観視しても自分のことをお婆ちゃんっ子だと思っている。 幼し頃の、曖昧な記憶の中には両親よりもお婆ちゃんの方が色強く残っている。理由なんてものは自分でもわからないが、とにかく当時から私はお婆ちゃんが大好きだった。 今でこそ家は別なのだが、昔は一緒に住んでいた。所謂二世帯住宅というやつだ。両親は共働き(とは言っても母さんはパートだったけど)で夜にしか家にいなかったし、お爺ちゃんは私が生まれる前に死んでしまったらしい。 そんなわけで、私を育ててくれたのはお婆ちゃんなのである。だからなのか、やはり私はお婆ちゃんが大好きだった。 わかっていた。 いつかはそういう日が来ることくらい。 でも、こんなのってないよ。 私は、静かに目を閉じている、消えてしまいそうなお婆ちゃんを見て涙を流して項垂れるのだった。 「お婆ちゃん…遅くなっちゃったよ、ごめんね」 話しかけるも秋子お婆ちゃんは返事の一つもくれない。昔は呼んだら、ただでさえ小さな目を細めたしわくちゃな顔で笑いかけてくれたのに。今は繊細な彫刻のようにただ固まっていた。心音を教えてくれる電子音だって弱々しく聞こえた。 母さんの話曰く、胃がんだそうだ。 いや、この際病名まではいい。聞くだけ怖さが増すこと以外何も無い。問題は、意識がなくなって、こうなってしまうまで両親が私に教えてくれなかったことだ。 「…」 私は怖くなって、ここにいても余計にお婆ちゃんが遠い存在に見えるような気がして病室から逃げ出した。
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