最果ての駅

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コンコンコンッ 「紗枝」 「来ないで」 扉越しに母さんを拒絶した。 父さんも母さんも絶対に許さない。たとえどんな理由があっても許すことはないだろう。それほどあの2人の罪は大きい。 「ねぇ、紗枝」 「うるさい、黙れ」 「ちょっと…」 「うるさいってば!」 拳で強く扉を叩いた。ドンッて音がして、思ってたよりもずっと大きな音で自分でも驚いた。 「紗枝…」 その言葉を最後に、母さんの声は聞こえなくなった。代わりにどこからか啜り泣く声が聞こえたような気がした。 お婆ちゃんの体調を崩したんだと聞かされたのは半年ほど前だった。そのときは、両親共々風邪だとなんだの、軽い病気と言い張った。 私は私で、その頃は試験間近で忙しかったから、平気だと聞いて大して気に止めなかった。 そして病院に行ったのが昨日。 入院するほど重いなんて、さらには命に関わる病気だなんて、初耳だ。 顔を上げ、自分の部屋に目を向ける。 ベッドの脇においてある犬のぬいぐるみは、たしか2歳の誕生日のときに、お婆ちゃんから貰ったものだと聞かされた。 今も使っている勉強机は、お婆ちゃんの高校の時の入学祝いだったはず。 「……」 私は流れてくる思い出たちを振り払うようにかぶりを振った。 今更思い出したところで余計に辛くなるだけだ。怖くなるだけだ。 私はそうしてまた、さっきまでのように床の一点をひたすら見続けた。時計の音が、煩わしく耳にまとわりついて落ち着かなかった。
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