最果ての駅

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ちょうどいい。 私がそう決心し、自宅の最寄りにある「河野駅」という駅に向かったのは、噂を聞いてから一週間もあとの事だ。 どうせ調査を頼まれてる事だし、何より、何だかお婆ちゃんに会えるような気がした。 馬鹿馬鹿しいってことは誰かに言われなくても分かりきっている。でも、1%でも可能性があるとするならば、試さずにはいられない。 “あっちの世界”と繋がっている「さよなら駅」 生と死の境界線なんてものがあるならば、生死をさまようお婆ちゃんは、きっとそこにいる。 後から振り返れば、このときの私はもうお婆ちゃんしか見えていなかったんだろう。おそらく、怪しげなカルト集団とかの勧誘にもあっさり乗っちゃうくらい危なっかしい。 呆れた話だ。 「えっと……、日の出に来るんだっけ」 携帯端末で時間を確認する。 まだ午前5時より前だ。 当然、日は登っていない。 肌寒さに身を震わせながら、この静寂の世界に身を向ける。 無人の駅というのは、とても新鮮な気がする。終点の錆びついた田舎の駅とあって、人は決して多くない。だが、ここまで人の気配がないのは初めてだった。 不気味。 しかしながら神秘的な空間。 通い慣れた場所なのに、景色も、匂いも、この静けさも、今日ここに初めて来たのではないかと錯覚させる。 ふと、奇妙な眩しさに目を惹かれた。少しずつ空は白んでいるが、まだ日の出にしては暗い。 この光は……? そう思って振り向くと、そこには二つの煌々と眩しい光がゆっくりと近づいていた。 私の思考は停止する。 目の前の線路をそれはゆっくりと通過し、徐々に減速していく。独特の気の抜けるような音を響かせながら、やがてそれはピタリと止まり、プシューと声音をあげる。 電車だ。 明かりのついた大きな窓。その奥に壁に備え付けられた薄汚れたスポンジのような物体。さらに天井からは皮に吊るされたドーナツ状の物体が垂れ下がっている。 どこからどうみても電車だ。 もう一度ため息のような独特な音をあげ、目前の扉が横にスライドする。 当然だが、この時間はまだ始発電車も動いていない。元々駅員もほとんど見かけない駅で、人影は一切ない。 だが、たしかに私の前には、大きな口を開けた電車の入口があった。
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