真相≠想い

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 ここにきて二人の距離急接近!? などという保の心の声を知ってか知らずか、法子は頭を小突いて、「いやらしいこと考えてたろ?」などと当たらずも遠からずといったコメントを寄越す。  「もちろん!」と答えつつ、ほんの一握りの罪悪感を抱いてから、そこいらへと放る。  これ以上核心へと迫られる前に別れた方がいいだろう。  自然に、ごくごく自然な感じで切り出す―。  「お仕事に戻られては?」  ……―はい、不自然。  口調からして普段の結城保のモノではない。  「そうだな。そろそろ仕事に戻るとしよう」  随分と聞き分けの良い法子は最後にそっと……囁くように、  「……―」  えっ?   脳裏にこびりつくようにして残る法子の言葉を幾度も反芻しながら、必死にその声の主の背を追う。  僅かに覗く健康的な白い歯と消え入るような笑い声。法子は駆けるようにして保との距離を取ると、華麗にターンを決めて、「そういうことだから」と告げると踵を返して喧騒の中へと消えて行った。  
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