epilogue

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 『荒木直哉の遺作日本円にして約一億で落札』  今朝の朝刊に踊っていた見出しだ。  掲載された写真には今回、暗号作成の依頼をしてきた男の姿もバッチリ捉えられていた。  結局、三人仲良く一億を山分けか。  全ては、あの爺さんの想い描いた道筋通りという訳か。見事なまでに利用されてしまったという訳だ。死人の掌で踊らされるというのは思いの外悔しいものだ。  眉間に集まる皺に指を押し当て時計回りに捏ね繰り回す。  指先がほのかに熱を持ち始めた頃、親友であるとともに仕事の上でもパートナーの結城正義は店内に入ってくるなり手にした朝刊を広げ、  「見たか誠。今朝の朝刊―」  「見たよ」と話しの流れを断ち切ると、正義は続く言葉を飲み込んで、  「結局、依頼は完遂できたんだよな?」とおそらく今日、店に顔を出した本当の理由を口にする。  「ああ、取り敢えず、な」  そう、取り敢えずは上手く行った。  正義はおどけた調子で、「それにしても今回はいつも以上に疲れたな。荒木直哉の遺作ブルー・シリーズ№100と引き換えに慣れない暗号作りに、荒木龍臣という偽の首謀者作り、は案外簡単だったが……妹たちには知略など幾ら張り巡らせても意味がないことを改めて確認させられた……」  次第に声色の落ち着き始めた正義は、大きく息を吐くと、「まさかお前の妹があれほどの機械音痴だとは思わなかった」と愚痴を零す。  申し訳ない、と頭を下げることしかできない。  何せ誠もまた、自身の妹があれほど機械音痴だとは思ってもみなかった。  
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