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誠は、携帯のカメラモードのバーコード リーダーを起動させ写真を撮った気になっていた法子の姿を思い浮かべる。
あの子は一体何を読み込んでいたのだろう。
念のためデータ消去できるようにと珈琲に睡眠薬を仕込んでおいたのだが、その必要はなかった。
もう少し妹の機械音痴を信用してもよかったか、と自身の見通しの甘さを反省しつつ、今回の件の一連の流れを作ってくれた弟たちに感謝する。
おそらく保と鉄平は暗号の答えにはすぐに行きついたのだろうが、二人の弟の性格からしてすぐさま姉たちに解読結果を伝えるとは考えにくかった。
結果として弟たち―保が解読結果を口にしたのは今回の一件が解決したその日だった。
可愛い弟たちに花を持たせるような気持ちで暗号制作から暗号解読までの流れを考えていたというのに、あのオッサン余計なことしてくれたよ。と腸煮えくり返る思いの誠を余所に正義は、店内の壁にひっつき虫(合成ゴム製の粘着剤)をこねては千切り、貼り付けていた。
「あっ、おい! 仮縁にひっつき虫つけるな。一応商品だぞ」
「いや~、こんな感じで作品でも飾ったら店の雰囲気も華やかになるかなと思ってな」
「マジで余計なお世話だわ」
相棒との雑談? をしていると……―。
滅多に客の来ない店内に来店を知らせるベルの音が響く。
おっと、お客様だ。
「いらっしゃいませ!!」
お前は部外者だろッ!
誠は心の中でツッコミを入れると、正義の声をかき消すように間髪入れずに挨拶をする。
このお客様は一体どちらにご用件のあるお客様なのだろうか。
当店が提供できるのは最高の画材と最高の犯罪計画。
お客様の風体は芸術家とも取れるが纏っている雰囲気は犯罪者のそれに近い。
すると、こちらを窺うように視線を泳がせながら、
「あのぅ、すみません……」
「はい、何かお探しでしょうか」
満面の営業スマイルで誠は対応する。
えっと……―。
そして、お客様は重たい口を開いた。
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