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1人で勝手に先走っている己が恥ずかしくなり、進めていた膝を引きながら、どこを見れば良いか分からなくなって、手元に目を落とす。
「差し出口を失礼致しました。決して、あなたを侮ったわけではありません」
「いいえ、その……、」
雪乃は面映ゆそうに頬を染めて、袂で顔を隠す。
「お気にかけていただき、嬉しゅうございます、冬霞様」
「……いえ」
お互いに微妙な視線をもだもだと惑わせ、あとに言葉が続かず、ますます目線を合わせづらく、妙な沈黙に支配される。
情けなくも、何とかしてくれという思いで皇毅に目をやると、彼は微かに苦笑して口を開いた。
「ともあれ、その花びらは、しばし宇山殿が保管されるのが宜しいかと。いずれにしましても時期外れであることは、間違いございませんので」
皇毅に話を振られた晟雅は、一瞬面食らったようにまばたきをしてから、神妙な様子で頷いた。
「そうだな。じきに雪も降ろうというのに、斯様なものが出てくるとは、考えにくいからな」
晟雅は元通りに花びらを懐紙で包み込むと、その合わせ目を軽く刀印で切った。
「念のために、雪乃。もしも今後も、怪しげなものを見つけたら、手を触れずにおきなさい。必ず俺が占るゆえ、下女たちにも触らぬように伝えておいてくれるか」
「承知いたしました。ですが、どうかご無理をなさいませぬように。兄上も……冬霞様も」
気後れ気味に向けられた眼差しに、体の内側で、何かがぶわっと震えた気がした。
「お心遣い、痛み入る」
そう答える声が、勝手に上ずった。
なぜか緩みそうになる口許を、そっと手で隠し、話題を逸らそうと膳に視線を移す。
「それよりも、せっかく姫にご用意いただいた夕餉です。はしたないとは思うが、早にいただきたいのだが」
「おお、そうだな。すまん、食べよう」
晟雅が箸を取り上げるのを見て、雪乃は気を取り直したように瓶子を手にして、紫翳の杯に傾ける。
注がれた酒に目礼し、雪乃が晟雅のほうへ瓶子を向けた隙に、こっそりと杯の影に溜息を隠した。
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