イブの夜を過ぎても甘く : 空港で

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舞っては消える雪を見ながら、たった一人のことを思う。 僕たちはいつもふたりでひとつのセットみたいだった。目も髪も顔も生まれた国も違うのにそっくりだって言われて、長く一緒にいて嫌なことなにひとつなくて、ふざけてばっかりで、いつも笑ってた。 その手を離してしまってから、初めてのラブレターをもらった。素っ気なくて、どうしようなく想いのこもったラブレター、それはここまで来る航空券。 ただ遠い距離を飛行機に乗って移動するためじゃない。自分の人生を選び取る時間と距離を作るため。 古い風習が残る書家の家系で、それを当然と認め、本家長男として言われるがまま生きてきた。名門校の生徒会長として常識以上の要求に応えようとした。家と学園、自分を通じて互いにメリットを得ようとする大人の思惑に振り回されながら、なんでもない顔をして笑っていた。従兄弟の秀(しゅう)と再会して、痛みを伴う膿んだ関係に囚われた。 自分の嫌な部分を胸に突きつけられ、まともに食べることも眠ることもできなくなって、ひどく疲れていた。わずかな眠りの中で泥にのまれていく夢を見て、自分の叫び声で目を覚ます。 全部が大きく肩にのしかかって潰されそうで、もう終わりにしてくれと、心の奥底で叫んでいた。そして短絡的な方法で終わりにしようとした。 それをガブリエルは全部知っていてそばで待ってくれた。冷たくあたっても『ボクは本当の凛を知っているから大丈夫』そう言って変わらずいてくれた。 しわくちゃになるまで何日も握りしめられて、渡された一枚の紙切れ。 『カケオチしよう、凛。どんなに一緒にいたくても、ボクは凛を連れて行けない。ボクのところに来て。凛は絶対逃げないって知ってる。逃げるんじゃない、ボクと一緒にいるこっちを選んで』 『カケオチなんてふざけてる。おままごとじゃないんだから』 『本気にならない人生のほうがおままごとだよ!ボクは本気だ』
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