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クラシックなオスマン様式の建物に入っていくとすぐに手入れされた中庭が広がる。外から見ただけではこんなに美しく石畳と植物で飾られていることは分からない。雪は止んでいて、うっすらとした名残を花壇の土に残しているだけだ。
「雪、止んじゃったね」
「こっちって寒いけど、滅多に雪は降らないんだよ」
少し残念な気もしたけれど、おかげで高速が渋滞することもなく、無事にガブリエルのうちまでたどり着いた。
中庭に面した扉の向こうはホールになっていて、螺旋階段の真ん中に映画に出て来そうな小さなエレベーターがある。格子の向こうをうぃーんと機械仕掛けのように危うい箱が動いているのが見える。
スーツケースとボストンバッグを入れると隙間しか残っていなくて、ふたりでぎゅっとくっついて乗り込んだ。ついでにちゅっと軽いキスもした。
赤い絨毯が敷かれた廊下を進んだ先の扉を開け、エントランスでコートを脱ぐ。小さなアンティークのソファーや落ち着いたピンクのバラの花が生けられた花瓶に優しいランプの光が落ちている。
「わぁ、ヨーロッパのアパートって感じ」
「凛が気に入ってくれたら嬉しいよ」
『ふたりだけでゆっくりしたかったからホテル予約しておいたの。せっかく凛に会えたのに、うちに帰ったら絶対落ち着かないから』とガブリエルが言った理由はすぐにわかった。
バタバタとした賑やかな足音が響いた後、勢いよく乱暴に開かれた扉。
「凛っ!!来てくれて嬉しい!!ずっと会いたかったのよ!!」
突然現れた美少女に、心からのものと伝わる、温かな(むしろ必要以上に熱い)抱擁を受け、頬にちゅっとキスされる。混乱の中、やっとの事でフランス語の挨拶を思い出す。
「ありがとう…はじめまして」
「ガブちゃんでかしたわ!こんな可愛いニホンジンヅマを連れて帰るなんて!やんっ、王子様みたいにキラキラしてるっ!んーーーっ、か、わ、いいーー!」
滑らかに言葉が紡がれるが、色々日本語間違ってます…。遠慮なく顔や頭を撫で回され、猫にでもなった気分だ。
ガブリエルと同じ大きなブルーグレーの瞳を見開き、さらっさらのブロンドの髪を振り乱す美少女。整った容姿の分だけその勢いはチグハグな印象が強く、たじろいでしまう。
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