秀と凛

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凛を追い詰めたのは間違いなく自分だと理解している。眩しいほどにキラキラと光をまとっていた凛が、どんどん体の線を細くして、投げやりで虚ろな視線を返すようになった。 それでもあの留学生と一緒の姿より、本当の姿だと思った。 池のほとりでふたりを見かけたとき胸を抉られたような心地がした。小さな子供のようにくすくす笑いあって、引き合うように唇をつけ、互いの首筋に顔を埋めるなんて、すごく嘘くさい。 あれはずっと昔、凛が捨てたものだ。そんなお菓子みたいな甘いものだけで凛ができているはずない。もっと本当は違うのに。意図的に何かの役を演じて、そこに甘んじて気持ち良くなって、それでいいはずがない。 ーー 違うだろう。お前はもっと本当の底を見て、現実に生きている人間だろう。 手をぎゅっと握って、こちらに引き寄せた。あっけないほど簡単にこちら側に凛は来た。 どこかふわふわ漂う綿菓子みたいに違う世界で生きているのが当然って顔をしていたのに。自分で手を引いておいて嘘みたいだと思った。 抱くとか抱かれるとかそんなことは関係なく、明日もつゆも疑いなく一緒に過ごすかつてと同じ存在になりたかった。誰にも渡したくない。 「僕は全部お前のものだよ」 ーー 嘘だ!何を言われても、思った通りになっても苦しくて仕方ない。呼吸の仕方を忘れてしまったように苦しくて、必死で凛に縋る。凛は一緒に泥に沈みもがきながら、わずかに残った酸素を口移しで秀に与えた。 どれほど酷く当たっても凛は離れていかない。過去という今や幻想に近いものが凛を縛っていた。 そして、結局凛を抱いた。手荒く腕に閉じ込めた。ふたりにとって全部が現実で全部が幻なのに、その境目が曖昧でひどく惑わされる。逃げようなんて選択肢は、ない。 閉じ込めているのはこちらのはずなのに、どっぷり溺れているのは自分だ。自ら蜜に誘われ絡め取られる虫みたいに。
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