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あれからまた数週間が過ぎ、本当に有栖川と会えなくなって悶々とした気持ちが残る中、卒業式が目の前までやってきた。
「俺、ホントに卒業するんだ。」
「あ?何今更。」
教室の窓から外を眺めながらぼんやりとそんな事を口走れば有太は呑気に返事を返してくる。
こんなやり取りももう無くなるんだと思うと、妙な寂しさが込み上げてくる。
今までの俺にはなかった感情。
これも全て有栖川が変えてくれた。
俺が一人にならない様に、密かに気を配っていた事は知っている。
とぼけながら裏で猪口才な事をして、と思っていたけれど今となっては感謝している。
感謝しかない。
「有太。ありがとな。」
「う″……。なに。気持ち悪いな。」
なんかわかんないけど、勝手に口走ってた。
ただ笑って見せると、余計と気持ち悪がられいよいよおでこに手を当てられた。
それを払いながらまた窓の外を眺めていると「卒業式の後はどうする?」と聞かれ首を傾げた。
「あ、またお前話聞いてなかったな。」
「何の事?」
「クラスで集まるってさ。」
「無理。行かない。」
「言うと思った。でもほんとにもうこのメンバーで集まるの最後かもしれないんだぜ?」
「どうせ年取ってから同窓会とかやるんだろ?だったらいいじゃん。」
「やらないかもしれないじゃん。行こうぜ。」
「行かない。」
もしかしたら有栖川に会えるかもしれないし、卒業式の後は予定は入れたくない。
もしかしたら、だから会えない確立の方が高いけど、望みは捨てたくない。
「決着つけてくれるって言ってたしな。」
「なんの話?」
「煩い。独り言。」
「煩いって言うなよなぁ。」
有太は口をとがらせながらブーブー文句を言っている。
卒業式までホントに会えないなんて思わなった。
あの日、意を決してアパートに行っておいてよかった。
有栖川の義理のお母さんと会うなんて思わなかったけど……。
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