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あの日結局帰り道で有栖川と話すことはなかった。
と言うか、菊ちゃんに捕まった有栖川を遠巻きに見る事しか出来なかった俺は、有栖川の視線を若干感じながらも話し掛けることが出来なかった。
生徒会長と当たり障りない会話をしながら、歩いていたのは覚えているけど正直内容はさっぱり覚えていない。
けど楽しそうに話てた生徒会長の横顔だけは覚えている。
またこっそり取りだしたスマホのロック画面に映る四人の顔を眺めながら、小さくため息を漏らした俺。
これから待ち受けてるぽっかりと空いた心の隙間に、突然現れる人物によってかき乱される事になるなんて、この時の俺には全く予想なんてしていなかった。
『倫太郎?』
俺の名前を呼ぶ声。
『好きな奴にならいいかなって。』
突然の甘い声。
『お前は可愛いよ。』
俺をバカにしてるのか本気でそう思ってるのかわからない言葉。
「全部ウソだったのかな……俺、自惚れてたのかな……。」
有栖川と関わるようになって一年ちょっと、あれは現実ではなかったのか、静かになった日常に少しばかり味気なさを感じながら、一日を過ごしていった。
「なぁ、有太。やっぱり今日俺図書館やめとくわ。」
「え?なんでだよ。どうした?」
「ちょっと用事。」
用事なんてないけど今日は図書館で勉強しても絶対に身にならないと思った。
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