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「おわっっ!ちょっ!なにすんだっ。離せコラっ!」
怒りながら視線を上げるも何もしてこない恭平。
「ぁぁ……」
代わりに聞こえてきたのは微かな恭平の唸り声だった。
だからちょっと待っとけっつったんだよ!!
ばかじゃないの?何で引っ張った?何で絡もうとした?
イラッとしながら恭平から離れようと身体を起こすと「えー行かないでよー」とさっきより掠れた声が聞こえた。
「体温計と、暖かい食べ物持ってくるから待ってろ」
「……」
俺の話を最後まで聞かず恭平は寝息を立て始めていた。
ようやく解放され寝室から出て急いでリビングに戻り先ず体温計を探した。
風邪なんて滅多に引かない恭平があそこまでこじらせるのは珍しい。
「最近帰ってくるの遅かったからな……」
新学期が始まり、新しいクラスを持つようになった恭平は去年までの恭平とは違う。
今年から臨時教師じゃなくて教師として教鞭をとるんだ。
張り切らないわけがない。涼しい顔をして誰よりも努力してるんだ。
考え事をしていたらお粥がプチプチと音を立てていた。
「あっちぃぃ!」
ぷちっと跳ねた米粒が手に飛んできた。
ギリギリのところで火を止め、お粥を耐熱皿に移し替えてトレーに乗せた。
「さて……」
お粥が冷めないうちに胃に優しい付け合せを作り、お粥の隣に乗せる。
暖かい飲み物を用意してゆっくりとトレーを持ち上げて我に返る。
「……なんで俺……」
なんで俺、こんなに健気に病人の食事を作ってんだ?
いや、あの有栖川恭平が体調を崩すんだ。きっとかなり疲れが溜まっていたに違いない。
だから、これは致し方なく……。
寝室の前に来てドアノブを見つめる。中からは物音ひとつ聞こえない。
片手でトレーを持ち直しそっとドアを開け中に入った。もりんっと盛り上がった布団は規則正しく上下している。
恭平はそこにいる。
「なぁ、お粥作ったんだけど食べれるか?」
「……」
返事がない。
「寝てるか……」
サイドテーブルを引っ張りだしてそこにトレーをおいて体温計を手に静かに様子を伺おうとベッドの脇に座ろうとした。
視界はぶれ気がつけば枕が目の前にある。
「は?」
「あぁ……倫太郎の匂い……落ち着く……」
「いや、おい」
顔だけ布団から出し首筋あたりにその顔を埋めてくる恭平。
体温計を持った手で顔をおしのけ口に差し込んだ。
お菓子を貰えなかった子供のような切なげな顔をするもさりげなく手を伸ばそうとしてくるのを上手く避けながら「今時こんな体温計あるのが不思議だよ」
「近所のばーひゃんがくれらんら」
「なんで体温計なんだよ」
さぁと首を傾げる恭平。
口に入れた体温計の赤い液体はみるみるうちに上昇している。
「は?38.5?」
「あぁーどーりで倫太郎愛が足りないわけだ」
「違うだろ」
「いーや違わない。絶対倫太郎愛が足りてないんだ」そう言って突然口を開けてくる。
「な、なんだよ」
指を指した先には俺が作ったご飯。
「ま、まさか……」
うんうんと頷いてまた口を開ける。
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