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「あぁ、現存種がどんなものか解らなければ、後の研究者も新種と見分けようがないからな、そういう意味で言えば、その標本の蝶も標本になった意義があるんじゃないか」
「それはどうかしら!」
「教師に向かって、その口の聞き方はなんだ」
叱られて、少女は首をすくめ、ちょこんと舌を出す。
「自然史研究における標本は、自然界に存在する万物を対象とするんだよ」
理緒がそう言うと、少女と教師は窓際で光を浴び、標本を眺める理緒を、ハッとして見つめた。
自らの身体から光を放っている天使のようだ。
絵画のような風景に『何て綺麗で奇妙な光景なんだろう……』と2人は思った。
「自然史研究の対象物は空間的、時間的に異なる様相をしているから、同じ種または種類のものでも、異なる場所または異なる時間に採集された物に同一の物はないと言う考え方なんだ。つまり……」
「つまり、なによ」
「この世の命の数だけ標本を作る意義があるって事だよ」
「そう言う言い方は不気味ね」
「あれ? ウケると思って言ったんだけど」
「その言い方はアウトだわぁー!」
「僕は君を標本にはしないよ」
「当たり前でしょ」
当たり前だ。君みたいに美しくない女を、僕はコレクションにしたりしない。
理緒は心の中で呟いた。
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