夏彦を殺せ

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「理緒く~~~ん!」 フワフワとした抑揚(よくよう)をつけて、子犬の様なあどけない瞳をした少年が理緒を呼ぶ。 理緒がコレクションしたいのは彼、夏彦だった。 「こんな遅くまで何してたんだ、夏彦」 「ん~? 理緒君を待ってたんだよ~!」 下駄箱に背をもたれさせ、長い影を廊下に作り、夏彦は立っていた。 「今日はクラブの引っ越しがあるから、遅くなるって言ったろ」 「んん~、でも、今日も一緒に帰りたかったんだよ~!」 「一緒にいられるのは、玄関から校門までじゃないか」 理緒は毎日、家で雇った運転手の車で登下校をしていたので、夏彦の言葉に呆れた。呆れながら上履きから靴へ履き変える。 「うん! そうだよ!」 「そうだよ!、じゃない」 「ん~、違うの?」 「違うって言うか、ホント、馬鹿だな。夏彦って」 馬鹿と言われ慣れているのか、腹が立たないだけなのか、夏彦は終始(しゅうし)ニコニコとしている。 「じゃあ、校門まで、グミ、チョコレート、パインしよー!」 「グミ? 何それ?」 「そう言う遊び~、遊びながら帰れば、なかなか校門に着かないよ!」 「馬鹿の考え休むに似たり」 「どー言う意味?」 「何でもないよ、そのグミ、チョコレート、パイン、やろう。どうやるんだ?」 「んとぉ~、ジャンケンのグーはグミ。チョキはチョコレート。パーはパイン」 「で?」 「で~、ジャンケンして勝った人が進めるの。こんな風に。チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」 夏彦は正門に伸びるコンクリートの道上を言葉の数、ピョコピョコと飛んで進んだ。
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