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ふと、瑠湖(るこ)はおじさんの手に注目した。
「それ、怪我したんですか?」
おじさんは軽く笑って、怪我を手で押さえた。
「ああ、これな。うっかりしててな。大したことないよ」
現代日本なら最低三針は必要になる切り傷だった。
「ふ~ん、そっか。そういえば、どうしてお店やめちゃうの?」
「ああ、さっきは口が滑ったな。もともと借金があってな。それを返そうとして高価な宝石や絵画を旅の中で売っていたんだ。しかし、このご時勢、高い物は貴族か成り上がりの金持ちくらいしか買ってくれなかったんだよ。絵画は上流階層の趣味として成立しているからな。おっと話がそれたな。借金を重ねていたから、地道に少しずつ返していたんだが、もともと商才がなかったみたいでな。失敗だ。それに……なんでもない。とにかく、借金は返せたからもう商売は無理してしないくていいってことだ。どこか別の仕事に就くつもりだ」
「大変だったんだね……」
瑠湖(るこ)の同情のまなざしを目の当たりにしたおじさんは目をぬぐいながら頷いた。
「本当……生きてる中で一番大変だった。借金の返済日まで時間が迫っていたときは、なんとしても売らないとって気持ちになったんだよ。わかってくれるか?」
「うん、わかるよ~」
なぜかおじさんと瑠湖(るこ)は気持ちが通じていた。
どこか事務所の所長にノリが似ているからかもしれない。
それを横から見ていた甘利(あまり)が少しだけむすっとしていた。
にしてもである。異世界は日本の女子高生がうろつくには危険なのかもしれない。ささくれ立った気持ちの甘利(あまり)は、その傍(かたわ)らでこれからのことを危惧するのだった。
レミリは何かいい方法がないかを考えて、一つ思いついた。
「でしたら、あの絵画は複数あるはずなので、他はどこに出展されているかはわかりますか? 所有している人のことでも良いのですが。とにかくあの絵画と同じ絵を探してるんです」
「う~ん、そうだな。同じ絵画をただ見たいだけなら、総合冒険者ギルドのロビーでみられるだろうな」
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