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南ノ原甘利(みなみのはらあまり)は『犬を愛(め)でる同好会』という一風変わった部活に所属する今年で二年生になる女子高生である。
柿崎探偵事務所のお客様用ソファーに腰掛けて、いつも大人しく本を読んでいた。
薄い本を読むことはほとんどなく、たいていはハードカバーかページ数が1000を超えるものばかりだ。
この空間には彼女一人しかいない。そんな雰囲気を漂わせる不思議なオーラを持っていた。
腰まである長い髪はしっとりとしてきめの細かい人形のようである。
「……ふう」
静かにハードカバーの本を置いて感慨にふけった。
今回の物語ははらはらさせてくれたとかこの推理はちょっと無理があるんじゃないかと推理小説に自分なりの意見をつき合わせるなどするのだ。
それは静かであればあるほど彼女の意識を内面のみにむけることの出来る時間。
だが、そんな時間は儚くも崩れ去った。
「こんにちわーーーーーーーー!」
彼女は甘利(あまり)の同級生で大木瑠湖(おおきるこ)という。
クラスも同じだった。
元気が良すぎるため、普段は接点も無くすごしていた。
性格的にも大人しい甘利(あまり)と元気いっぱいの瑠湖(るこ)では話も合わない。背が低いのは同じだが短髪なところも正反対。
いや、だからこそ、甘利(あまり)は瑠湖(るこ)のことが気になっていた。
変な意味ではなく、同じアルバイトをしているのに、まともに会話したことが無いことにもどかしさを感じていた。
「ちょっと静かにしてくれません……か?」
「あ、ごめんねー。バイトだと思ったらテンションあがっちゃって」
なぜバイトでテンションがあがるのか、甘利(あまり)には一ミリも理解できない。
不思議・謎というカテゴリーに整理されている彼女を隅から隅まで解明したい。
たまにそんな妄想に取り付かれては振り払っていた。
「せっかくの一人の時間が終わってしまいましたか……」
「え? そこに所長いるよ?」
甘利(あまり)は悟ったような冷たい目で所長のデスクを見た。
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