第二章 異世界と絵画

3/8
前へ
/28ページ
次へ
 瑠湖(るこ)は興奮気味に市場の中をきょろきょろと見回した。 「ルコあっち見てくる!」  そういって駆け出そうとして、いきなり誰かとぶつかった。 「ふぎゃ!」 「きゃっ!」  それはメイドだった。背中に四角い板状の風呂敷を背負っている。  瑠湖(るこ)は体が小さいため、メイドに跳ね返されて地面に尻もちをついた。  甘利(あまり)はその様子を見てすぐに駆け寄った。 「瑠湖(るこ)、大丈夫!?」  その痛みに耐える潤んだ瞳と儚げな姿に、甘利(あまり)は思わず頭を撫でていた。  出来心というよりもほぼ無意識に近かった。 「ねえ、甘利(あまり)ちゃん。どうしてルコの頭を撫でてるの?」 「はっ!」  我に返った甘利(あまり)は慌てて瑠湖(るこ)の頭から手を離した。  そこから即座にメイドへと振り返り謝罪した。 「あのすいみません。お怪我はありませんでしたか?」  甘利(あまり)につられて瑠湖(るこ)も謝った。 「その……ごめんなさい」  二人は一緒に頭を下げた。  甘利(あまり)が見た感じメイドさんに怪我はなかった。  ただ、かなり前に怪我をしたのか、片目に白い眼帯をして、両手に包帯をぐるぐる巻いていた。  そこに後ろから駆けつけた餡子(あんこ)とレミリも謝った。  メイドさんはおどおどしながら首を振った。 「あ、ええと、ううんと、とにかくみなさん顔を上げてください」 「はい。本当に申し訳ありませんでした」  甘利(あまり)は繰り返し謝った。  一体、ここがどんな文明でなにが相手の気に障るか分からない。こういう場面ではこうするのが一番だった。 「本当に気になさらないでください。こちらも不注意でしたから」  後ろに背負った大きな板状の風呂敷を一度見てメイドが言った。  大きなものを背負っていたから避(よ)けられなかったのだと甘利(あまり)はすぐわかった。 「はい、ありがとうございます」  瑠湖(るこ)も真似して言った。 「ありがとうございます」 「それじゃあ、もうすぐ馬車が出ますから、行きますね?」  メイドはそのまま通りを西のほうへと歩いていった。  甘利(あまり)はわざわざ市場に木の板を買いに来るなんて変わったメイドさんもいるんですねと思いながら見送るのだった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加