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「最初は緊張で死にそうでしたけど、今はまあ慣れましたよ」
「こういうのはさ、最初が肝心なんだよ。犬と一緒。最初に一発がつんっとやって、どっちが上かを叩き込む必要があるんだよね」
犬と一緒なのは、石沢さんの脳みそのサイズだと私は思いました。
「どっちが上かも何も、芹沢先輩のほうが年上ですし、それに先輩はとてもいい人ですよ?」
学院での暮らしは、ルールさえ守っていれば基本的には快適です。
もちろん、そのルールとやらが非常に厳しいので、大半の人間が不満を漏らしているのですけども、私からしてみればここでの暮らしは天国といっても過言ではなく、だってこうやって食堂に赴けば毎日のようにおいしいご飯を頂けますし、冷暖房も完備で、オマケに大きなお風呂つきなのです。
数少ない不満点といえば、スナック菓子の入手が極めて困難なことと、家事――といっても掃除と洗濯ぐらい――は自分でこなす必要があるということぐらいです。
その家事も、今は芹沢先輩が率先してこなしてくれるので、私はお姫様にでもなったような気分なのですよ、はい。
「あら、嬉しい」
不意に、芹沢先輩が会話に割り込んできました。
「ここ、いいかな?」
と私の向かいの席にご飯の載ったトレーを置いて、返事を待っています。
「どうぞ」
そう答えた私と、
「ダメに決まってんだろ」
と、ガンを飛ばす石沢さん。何が決まっているのでしょうか。
今にも飛び掛かりそうな形相です。私が、どー、どー、と石沢さんを落ち着かせようとする傍らで、
「そうだ、キミたちにこれをあげる」
芹沢さんが上着のポケットから取り出したのは、うまい棒でした。しかもめんたいこ味です。
この三日間、芹沢さんにしっかりと餌付けされていた私は「やほーい」とそれに飛びついて、早速咀嚼します。もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ、う――っ!
なんだか喉が焼けるような、目がちかちかするような……私は隣の石沢さんの様子を窺います。
石沢さんは吐血していました。大変です、救急車、救急車、と携帯電話を探しましたが、そんなものはここにはありません。
咳き込みそうになったから口を手で抑えると、なんだか掌に生ぬるい感触が。
掲げて確認すると、私の小さな手が、真っ赤に染まっていました。
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