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――わたしには欠陥がある。
それに気がついたのは、物心がつくよりも前の話なのですが、それが異常だということを知らされたのは、割と最近の話で、それまでは例えば耳を動かせるとか、そういう類の、宴会芸にすらならない、ごくごくささやかで、退屈な特技だという認識でいたわたしでしたが、それを目の当たりにした友人の悲鳴と糾弾で、ようやく自分が化け物だということを思い知ったのです。
ここ、聖峰女学院は、そういった理由で捨てられた少女たちが集められる現代の姥捨て山です。
ゴミはゴミ箱へ、化け物は聖峰へ。そんな感じのノリと使命感で、親族に切り捨てられた乙女の数はおよそ三〇〇人。
それだけの数の人間が共同生活を送っているのだから、物騒な話題には事欠きません。
ましてや世間から怪物の烙印を押された乙女たちが詰め込まれているのですから。
がり。
わたしのルームメイトだった山――……なんとかさんも、今月の頭に失踪してしまいしたし。
嗚呼、入寮初日に東京バナナを差し入れてくれた山――……なんとかさん。笑うとえくぼができる可愛らしい人でした。
でも毎朝のように山――……なんとかさんの咆哮で目が覚めてしまうから、実のところあまり好きにはなれなかったのですけども、今にして思えばわたしは山――……なんとかさんのそれに、少し安堵していたのだと思います。あの咆哮を、あの悲痛な叫びを聞くことで、嗚呼、わたしはまだ、まともなんだ、と。そう思えましたから。
わたしはまだ、人間なんだと、そう感じることができましたから。
がり。
きっと山――……なんとかさんは、食べられてしまったのでしょう。
深い針葉樹の森と、高い煉瓦の壁に閉ざされたこの学院から、山――……なんとかさんのようにどこか間の抜けた娘が逃げ出せるとは到底思えません。
ですから、山――……なんとかさんはきっと、悪い魔女に食べられてしまったのです。
わたしたちを化け物で、お伽噺にでてくる狼だとするのなら。
彼女たちはやっぱり魔女と呼ぶべき逸脱した存在なのだと思います。
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