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それはこの学院の生徒の総意で、彼女たち自身もそのことを自覚しているのでしょう。
だから、わたしたちのことを平気で喰らうのでしょう。殺せるのでしょう。お願いです、なんでもしますから、食べるのをやめて下さい。
がりがり。
「ごめんね、何を言っているのかわからないや」
パンくずの魔女の片割れは、右手を顔の前で立てて、軽い調子で謝りました。
わたしの必死の懇願は、けれど彼女には届きません。
舌が引き抜かれてしまっているから。顎が砕かれてしまっているから。
ぽたぽた、とトンネルの天井から滴る水滴のように、わたしの顔から血の滴がこぼれ落ちていきます。
「ごめんね、姉貴は人間しか食べられない体質でさ」
わたしは己の愚かを嘆きながら、目を瞑ります。
やっぱり、魔女には関わるべきではなかったのでしょう。律儀にも東京バナナの恩に報いようと、侵しの家に足を運んだのが運の尽き。
がり。
そんな、いやに鈍い音が頭頂部から聞こえて、わたしの視界は真っ黒に染まりました。
そこでわたしの意識は途切れ――……ません! なんということでしょう。
砕けたはずの顎が、引き抜かれたはずの舌が、今現在も噛みつかれている右の頭部が、再生を始めます。
痛いです、すごく、すごく痛いです。あんまり痛いから、心も壊れてしまうけれど、それさえも元通りに戻ってしまうから、この苦しみから逃れる術は今のところ思いつきません。
まだ幼かった頃、手に持っていた色鉛筆が右の眼球に突き刺さったその瞬間を、嫌でも思い出します。
延々と、そしておそらくは永遠と、脳裏には走馬灯が流れ続けます。
がりがり。
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