1話「在野さん失踪事件」

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「在野さんってそんなに逞しい人でしたっけ?」  確かに、消費期限が切れてしまった東京バナナを有り難そうに味わってはいましたけども。  あれは、校内の案内を買って出て下さった学院の先輩に、半ば押しつけられるようにして頂いて困っていたのですが、在野さんは私からの差し入れだと勘違いしたみたいでした。  そういえば、その東京バナナと関係があるのかは、在野さんが豚が如き勢いで(養豚場だけに)全部食べてしまったからわからないのですが、その数分後に血反吐を吐いていましたっけ。  それなのに「平気です、平気です」と言っていましたっけ。  私は、私の部屋が入寮数時間で事故物件になるのではないかと冷や冷やしたものですが、どうやら本当に問題がなかったみたいで、その一時間後にはおいしそうに夕ご飯を食べていました。  ……あれ? そう思うと確かに、在野さんなら大丈夫なような気がしてきました。  いやいや、でも、そもそも消費期限の切れたお菓子を食べただけで、血を吐くっていうのはどうなのでしょう。実は虚弱体質だったのではないでしょうか。  私には口から血を吐き出した経験がないからわかりかねますが。 「いや、彼女って不死身だから」 「え、なにそれ凄い」  そんな衝撃の事実をさらりと言ってのけてしまえる石沢さんも凄い。  異能バトル漫画よろしく「能力を知られたからには生かしておくわけにはいかねぇ、ぐへへ」という感じのノリにはならないのですね、私、安心しました。 「脳みそを潰しても死なないんだって」 「なにそれ怖い」  そういうのはB級映画の怪物の領分でしょうに。  うら若き乙女が、心を持った人間が、死ねない、という病に罹ったところで、幸せには決して成り得ないでしょうに。 「でも、それなら本当に心配はいりませんね」  そんな感じで、私たちの私たちによる「在野さん失踪事件」に関する閑談は終わります。
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