本編

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「イヤよ!絶対に、イヤよ!!」 ミオリは叫んだ。 その小さな身体を懸命に震わせて。 けれども彼女の言葉に誰も耳を傾けない。 ただ困惑した笑みをもって「大丈夫だから」と慰めるだけ。 ミオリは思う。 ちっとも大丈夫なんかじゃないわ。 だって、私、知っているのよ。 それが、とっっっっても痛いってこと。 ミオリは瞳に涙を浮かべて抵抗する。 けれども彼女の左腕は、大男に掴まれ、固定される。 唯一の出口がある後ろを振り返るけれど、そこには大女が立ちはだかる。 ミオリは諦めるしかなかった。 彼女の逃げ道は塞がれたのだ。 この忌々しい巨人たちに。 それから、彼女はきつく目を瞑った。 これから自分の身体に行われることを見たくなかったから。 彼女は息を潜めて、それが終わるのをじっと待った。 「……うっ」 痛みがミオリの身体を駆け巡り、そして終わった。 いつの間にか止めていた息をミオリは大きく吐き出して、自分の左腕を見た。 そこには白くて小さなガーゼが当てられており、やっと悪夢が終わったのだとミオリは安堵した。 ミオリに悪夢を見せた大男に向かって、彼女は憔悴した顔でこう言った。 「ありがとうございました……」 それから、心の中でひとりごちる。 疲れた…もうイヤだ…。 二度と、二度と、インフルエンザの予防接種なんて受けないんだから……!! 悔しそうに下唇を噛んでいるミオリに大男、否、医者は申し訳なさそうな顔をして、 「じゃあまた来月に来てね」 「すみません、この子本当に注射が嫌いみたいで。また二回目もお願いします」 医者の言葉に絶望の表情を浮かべた小さな女の子は、扉の前に立っていた母親に腕を引かれて診断室を後にした。
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