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ラドニーの家ではセレが腫れた頬を冷やしていた。
ラドニーの妻が冷たいジュースと焼き菓子を出してくれたが、セレはほとんど口に入れる事ができない。
ジュースは少し飲めるかもしれないが、柑橘系の酸っぱい香りがする。傷に沁みそうだ。
そのセレの目の前で、何とも美味しそうに焼き菓子を頬張るエルグ。
「これは何ていうお菓子?」
「マドレーヌよ。」
「これは美味しい!香りもいい!セレ、残念だな。」
エルグはご丁寧に手で煽って香りをセレの方に送ってくる。
セレは黙ったまま、ちらりとエルグを睨んだ。
…全くこいつは…
そんなセレに、少女が冷ましたハーブティーを持って来てくれた。
この家の娘ルーチェだ。「灯火」の意味だ。ピアリよりも少し年上に見える。
「どうぞ。これなら飲めると思うわ。」
ありがとう、と言いたいが口が思うように動かないので、少女の目を見て表情だけで挨拶をした。
「どういたしまして。」
ルーチェは笑顔で答えてくれた。
ラドニー夫妻にはこの上なく大切な一人娘だ。
「パパとお祖父ちゃんはまたケンカをしたの?」
ルーチェに訊かれてラドニーは少し困った顔になった。
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