第5章 風車小屋と竜

93/98

368人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
儀式的なものがひと通り済んだところで、セレは2人の傍に行き心からの祝辞を述べた。 そして 「プレゼントを用意したんだ。今日の君達の為に、今から最高の風を贈るよ。」 と言った。 「風を…?」 ジンが不思議そうにきいた。 「世界中から3000種類の風を集めて周りに留めてあるんだ。今、調合して流すから、数分間待っていて。」 「3000…!?それはすごい…うん。」 セレは呼吸を調えて精神を集中し、呪文を唱えた。 風が穏やかに吹き始めた。 ただの心地よい風…だと最初は誰もが思った。 その内に、風が全身を通り抜けて行くのを感じた。 心の中までも吹き抜ける… 身も心も、すっきりと老廃物が取れて清涼になって行く… いつの間にか、呼吸も深くゆったりとなっていった。 …鎮静、安らぎ、満ち足りた感覚… そして歓喜。 …中には感極まって、涙を流す者さえいた。 この不思議な風の中では、負の感情は消え失せる。争い事など絶対に起きないだろう。 静かに、歌うように、呪文を唱え続けるセレの姿は神々(こうごう)しささえ感じられた。 …風は、10分程で止んだ。 人々は夢から覚めた様に、ざわめき出した。 「…一体、今のは…」
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

368人が本棚に入れています
本棚に追加