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鬼が往く
無数の刀を身にくくり付けた鬼が一匹、砂煙の中を征く。
朝焼けが照らす城下町、往来にちらほらと居合わせた町人は語る。
「あの御方は」
「笑っていました」
「怒っていました」
「泣いていました」
「鬼の様なお顔で」
その鬼が人であった頃の名は、何と言ったろう。田舎の小さなお国で城勤めをする真面目な男。友と酒を酌み交わし、妻と子を愛でる気のいい男。
そんな面影は、いずこ。
「そこの者! 止まれ!」
城門の兵が大きく声を上げる。
「止まれ! 止まらぬか!」
鬼に人の言葉は届かぬよ。
あれよと言う間に鬼が剣を抜く。槍をすっと横切って、左方の門番の首が飛んだ。咄嗟のことに意味の分からぬ右方の門番は、飛び散る血しぶきに目を閉じる。
ごとん……暗闇の中、鈍い音。右方の門番の首も落ちた。
――鬼侍 ONI-ZAMURAI
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