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「や、やぁ」 「いらっしゃいませ、城崎さん」 「マスター、先日はすいませんでした。・・・結野くんも」 「・・・」 「いえいえ、お気になさらず。忘れ物なんてよくあることですよ。ね、結野くん」 ついに入店したわけだけどもうやだ。結野くんが一回も目を合わせてくれない。 でも残念ながらシミュレーションどおりだ・・・。 開店と同時にほぼ入店したので他の客はいない。というかそれを狙ったんだけれども。 いつもどおりに彼から近い端の席へとかけた。 「・・・あの、本当にあのときはごめん」 「・・・あのときとは?」 「俺もかなり酔っぱらってたみたいでさ。実は結構記憶も曖昧なんだ」 「・・・などと犯人は供述しており、」 「ほんとにごめんなさい。申し訳ございませんでした。結構ばっちり記憶ございます。」 渾身の釈明(嘘)も秒でバレたんですけど。大人のスマートさ無駄だったんだけど。 「記憶ないなら日曜に会ったときにあんな狼狽え方しないでしょう。白々しいです」 「あ、あぁ。・・・でもほんとにごめん。酒で頭回ってなかったのは本当だよ。しかも俺尻フェチでさ。思わずねえ。深い意味はないから気にしないで」 一回の嘘がバレたとしても本当の本音は隠すのが大人ですね、はい。 「・・・たとえ尻フェチで酒で酔ってたとしても、男の、しかも俺なんかの尻を触るなんて頭どうかしてますよ」 いや、まあ、ごもっともですとも。 チラッとようやくこちらに視線をよこしてくれたけど、相変わらずの眉間の皺。 「うん、だからごめん。もうしない」 「したら慰謝料もらいます」 「あれ、出禁とかじゃないんだ?」 「せっかくの太客なのにもったいないでしょう」 「君の中で俺は金づるでしかないのはよくわかったよ」 いつもの調子に戻ったのが嬉しい。 ここで鑑賞できる彼の下半身がもう鑑賞できなくなるかもしれないと考えただけで、憂鬱だった。 いつもどおりの不愛想な態度に胸をなでおろす。日曜に感じたギクシャクした空気より大分心地いい。 「そういえば、日曜は改めてありがとう。どうやってうちのマンションに入ったんだい?」 「ああ、一応ピンポン押したんですけど、案の定出なかったので。運よく他の入居者がエントランスに入ってったので便乗しました」 「なーる」 うちはオートロックのマンションだ。今の時代はセキュリティ大事だからね。
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