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『城崎さんって想像していた方と違いました』
たしか最後にアミにこう言われたと思う。
バーテンくんの下半身に見とれていたせいで、彼女を構ってあげなかった自覚はある。
気づけば終電の時間がせまっており、これからどうするか問われると、タクシー代だけを渡した。
俺が送るか、このまま朝まで一緒に過ごすのを想定していたらしく、一人でタクシーでの帰宅を促されるとは予想していなかった彼女は、最後にあの言葉を残して去っていった。(きっちりタクシー代は持っていった。)
そのまま閉店までウイスキーをストレートで飲み、バーテンくんのケツを心ゆくまで鑑賞した。
彼が作業をするたびにスラックスが動き、浮き出る腿の形。とても綺麗だ。
マスターに困り顔で会計をお願いされるまで凝視していたのは言うまでもない。
翌日、仕事が手につかない・・・わけではないが、四六時中考えていた。
今まであんなドストライクなシルエットを見たことがあっただろうか・・・。
いや、ない。断言できる。
出来損ないの上司に呼びつけられようが、外勤しようが今日一日はあの光景を頭の中で何度も再生した。
・・・触れたのならどんなにいいだろうか。
アルコールは完全に抜けきっている。だが思考はとうとうここまで達してしまった。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか」
だから業務終了後に体が素直にバーへと向かって行ってしまったのは仕方ないだろう。
愛想の良いマスターが出迎えてくれた。まだ19時という時間のせいか、客足はまばら。空いてる席にかけていいと言われ、真っ先に昨日のカウンター席へと座る。
「・・・お客様、あちらにも空いてる席がございますが、」
「ああ、いいんだよ。ここがいい」
座ったカウンター席は店内の一番端。入り口からも見えづらいし、何より店員が店内中央側にいるため、ほとんどの客はなんとなく中央の席に座る。俺も普段なら中央側に座るだろう。昨夜はこの席しか空いていなかったから座っただけだ。
しかし今なら迷わずここに座る。他の客がこの席を避けることに感謝するレベルで。
なぜなら、強面バーテンくんのお気に入りのスペースがこのカウンターの端だからだ。
「・・・・・・いらっしゃいませ」
俺の姿を見て一瞬だけ眉間に力が入っているのを見てとれたが、うん、別に睨んでないよね?俺客だし。
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