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再び気持ちが沈むが、彼に会わないかぎりは何も始まらない。
自分にはもうBARか彼の自宅に乗り込むかの二択しか残されていなかった。
早く彼に会いたい。
でもまた拒絶されるのかと思うと、好きを自覚した今は不安の大きさが違った。
それでも何も進展しないままよりはいいと思い、早速今日にでも会いに行こうと決意したところだった。
「すまん、城崎、話があるからちょっといいか」
「?はい、課長」
上司に呼び出され、いやな予感しかしないまま、会議室へ通される。
神妙な表情しても今日は残業なんてしないからな。今日はXデーなんだから。
「いきなりで悪いんだが・・・郷田が出勤停止になってしまった」
「・・・え?」
構えていると課長の口からは聞きなれた後輩の名前が出てきて、その後輩の状態に思わず思考が固まる。
3年下に入ってきた後輩。
名前から想像できないくらいひょろっとしている奴で、でも頭が良くて真面目な奴だった。
気が利いて、こちらの指示を待たずに的確に対応する。
たまに飲みに連れて行って談笑もするくらいには可愛がっていたつもりだった。
同じ課で勤務していたのにそんな話は聞いたことがない。
そういえば今日は一度も見ていない。ずっと外回りだと思っていた。
「取引先とのトラブルでね・・・うつ気味らしい。昨日病院から診断書を持ってきて、三か月は出勤できないってね」
「・・・全然気づきませんでした。トラブルっていうのも私の耳には・・・」
「郷田、真面目だろう?取引先に随分いびられていたみたいでね、それをできるだけ自分だけで対処していたらしくて」
「・・・気づいたらキャパオーバーに?」
「そういうこと。本人も申し訳なさそうにしてたけど、俺の部下の管理徹底が行き届いてなかったせいもある。これから人事とも協議があるけど、おそらく郷田は他部署に配置換えになると思う」
「それは・・・そうですね」
真面目すぎる奴だとは思っていたけど、気づけなかった俺も俺だ。
よくよく思い出してみればここ最近は顔色も悪かった気がするし、仕事以外の話もしていなかったと思う。
しばらくは会えない後輩に申し訳なさしかない。こんなことなら自分が取引先を代わってあげるくらいの対応をすればよかった。今の今まで気づけなかった自分が情けない。
何年、先輩やってんだ。
「郷田の持っていた案件をすべて私に回してください」
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