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「よければ、目覚める前のことを聞かせてもらえますか?」
口調は柔らかいが、威圧感がとてつもない。拒否権はないようだ。
「はい。あれは、私が夜に外へ出たときでした。珍しい生き物、体が丸くて兎のような耳、尻尾が長い不思議な生き物です。その生き物を追いかけていると、渦のようなものがあって、そこに飲み込まれました。その後、気がつくとここに」
わかりやすく説明することは出来なかった。だって、私にもなにが起きたのか理解出来ていないのだから。
「恐らくマルラビだな。人懐っこく好奇心旺盛だが、危害をくわえることのない比較的大人しい魔物だ」
これまで黙っていた紅夜は静かに呟いた。とても冷たく恐ろしい声で。
「マルラビは氷の国によく生息していたな。嫌だが、仕方ないな」
椅子から立ち上がる紅夜は先程とは売って変わって、ひどく嫌そうな表情をしていた。諦めにも似たような。
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