第5章 雷鳴

12/13
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/271ページ
幼い頃の自分を見下ろすのは少し変な気分だ。まるでテレビを見てるように当時を再現する物語り。 あれは小学生になったばかりの頃、学校終わりに友人だった人達と公園にいた私達。 【今日も香恋(かれん)ちゃんの洋服格好いいなぁ】 幼い頃の私と背格好の似てる男の子。名前はなんて言ったかな。思い出せない。 【いいでしょ。お父さんが昨日買ってくれたんだよ】 嬉しそうに自慢する私。まだあの人を『お父さん』と呼んでいたあの頃。 【僕も香恋(かれん)ちゃんみたいな服着てみたいな】 【なら着てみる?】 引き金となる言葉が交わされる。思い出したくない過去が溢れだす。見たくない。何度叫んでみても幼い私にも彼にも今の私の言葉は届かない。 やがてトイレで着替えた二人が姿を現す。お互いの服を交換して。その直後だ。ナイフを持った不審な男が公園にやってきたのは。そのナイフで何度も何度も彼を刺し続けたのは。 後で聞いた話では、お父さんに解雇された恨みだったらしい。その日からお父さんと呼ばなくなっていた。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!