第5章 雷鳴

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目を覚ますと私に用意された客間だとわかる。夢で見た彼とはあれから1度も会っていない。いや、会えていない。どうなったのか、生きているのかさえ私には知る術はなかった。 いつからか、この出来事は私の中で眠っていた。思い出すことを拒絶するかのように。あの場に誰がいたのか思い出せない。彼がナイフで刺されたこと、本当は私が刺されるはずだったこと以外は思い出せない。 寝汗で全身が気持ち悪い。何故今になってこの夢を見たのだろう。 ここ蓬莱島(ほうらいとう)に来てから、胸の奥底に沈めた記憶が色々覗く。私がここに来たことは偶然ではなく必然だったのかと思えてくる。なにか訴えかけられているような気がして落ち着かない。 「香恋(かれん)、起きてるか?」 廊下から紅夜(こうや)の声が聞こえる。何故か気持ちが少し落ち着く。 「どうしたの? 皆揃って」 そこには隊長が全員いた。 「そろそろ出発する。香恋(かれん)はすまないがここに残ってもらうが、いいか?」 それは覚悟していたので、大人しく頷くしかなかった。
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