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そうして手にしたばかりの万札を、ポケットの中でくしゃくしゃに丸めて、まるでピンポン玉を放るように曇天の空に投げ上げては受け止めた。
行きつけの美容院で白に限りなく近い金色にしたばかりの髪は、リッチなトリートメントの効果か、さらさらと風をはらんで耳元で揺れて心地よい。
五月の上野界隈は相変わらず観光客で埋め尽くされていて、僕はそれを縫うようにして春日通りの眼鏡屋の角を左に曲がり上野駅方面へ向かって歩いている。白のチープなジャージは大きめで、僕の手の甲をすっぽりつつんでしまって指先しか見えない。
「バナナチョコ生クリームひとつ下さい」
指の間に挟んだ四百二十円を手渡すと、アブアブ横のクレープ屋のお姉さんの頬が少し緩んだ。
まだ暖かいクレープに口をつけながらぺこっと頭を下げて店を離れると、奥から別な女性の声が聞こえてくる。
「めっちゃかわいくない?今の子……」
僕はその言葉を背中で聞いている。けれど、振り向いたりはしない。
クレープにかぶりつきながら、コンタクトレンズのチラシを配る人を避け、信号までのろのろと歩いていく。
チョコレート+生クリーム。最強だ。
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