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男の子は「だ、大丈夫です!」と自信に満ちた顔で、元気よく上擦った声で返事をした。婦人はぺこりと頭を下げると、申し訳なさそうな顔をしながら整理券を持っていない方の2本のボイルソーセージでトマトを受け取る。男の子はニカッと所々隙間の空いた歯並びを見せた笑顔を返すと、今にもスキップしそうな足取りで元に居た席に戻る。
婦人は周囲に軽く頭を下げた後、下げるついでに見つけた2人掛け用の席にフシューッと息を吐き出しながら荷物と一緒に席に着いた。トマトは婦人の指によって見事に貫通されていた。
「発車しまーす」運転手の気の抜けた合図とともに扉は閉まり、バスは再び走り出す。
猫は毛繕いを済ませると、再び格子の先を見据える。
前方の大きなフロントガラスからはライトを灯した車が勢い良くすれ違って行くのが見える。歩道には街灯に照らされた親子が、仲良さそうに手を繋ぎながら歩いている。
ピンポーンという音が鳴り、どこへ行っても同じに聞こえる女性の声のアナウンスが入る。
「お待たせしました。次は◯◯寺。◯◯寺。▲▲方面にお乗り換えの方は、ここでお降りください。次は◯◯寺。」
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