第3話「猫」

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 猫はその異様な風姿に危険を感じ、格子越しにフーッと威嚇をした。猫なりのこれ以上近づくなという意思を巨漢に送った。男は猫の意思を汲み取ったのか 周囲を一瞥すると、大きな足音を鳴らしながら運転手から一番近い席を選び、座った。 「発車しまーす」脱力感のある声が車内に響き、バスは再び走り出した。  しばらく走ったところで先ほどの大柄な男が席を立つ。男はそのままの状態で懐を弄りだし、何かを取り出そうとしている。周囲の乗客もは大柄な男が急に立ち上がった事にギョッとし、思わず男の方に視線が集中する。おそらく財布を出し、両替をするのだろうと乗客たちは思った。  しかし男の懐から出てきたものは財布と呼ぶにはあまりにもセンスのないものだった。 ヒッとふくよかな婦人が小さく悲鳴をあげる。それを起点に乗客たちがざわつき始めた。バスの中はあまり明るいとは言い難いが、乗客たちは男が何を持っているのかを理解するのにさほど時間はかからなかった。  「静粛に! みなさん静粛にお願いします!」 ドンドンと鼓膜が破れるかと思うほどの重苦しい音が車内に響き渡る。
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