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「迷ったんだ。君なら気づくだろうって」
例え、この時間だけはやり過ごせたとしても、この先必ずぼろが出る。
「あいつの頼みは、安易に君を迎えにいけってだけではないだろう?」
花火がパラパラと落ちていく。
すると、さらに花火がうち上がった。赤の花火で、最後のはずなのに。私は思わずテーブルに手をついて少しだけ腰を浮かせた。
ワイングラスが、カタカタと揺れる。
「あいつからの、願いだったんだ。『俺が死んだ後、あいつがフィナーレを見て泣かないように』って」
青、黄色、紫、白──。
花火は尚も上がり続けた。
そんなの、ずるい…………。
火花で明るい夜空を見上げる。
私の中から、あなたはすべてを消すつもりなの?
ぶわっと再び溢れだした涙は、今度は止まらなかった。
「あなた、知らないでしょう……」
苦しくて切なくて、悔しくて。
「本気の涙がこんなにも、苦しいなんてっ」
涙がこんなにも、しょっぱいなんて。
知らないでしょう? 私がどれほどあなたに、想いを寄せていたかなんて。
全部全部、知らないでしょう?
伝えるべきだった。あの日、彼に全部伝えるべきだった。取り返しがつかなくなってしまう前に。
今死ぬほど、
「あなたに、会いたいっ……」
花火はそれはそれは綺麗で、涙は塩よりしょっぱかった。
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