赤の花火が消える前に

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 十六の夏、私は友達と夏祭りに出掛けた。その日、私は彼とは過ごさなかった。  それが間違いだった。翌日、お詫びをしようと彼のもとに見舞いにいった。しかし、彼の部屋には何も残っていなかった。見慣れたブランケットも、花瓶も、彼の姿も、香りも。何一つ残っていなかった。  私は急いでナースステーションに駆けていって、彼の担当だったナースから手紙を受け取った瞬間崩れ落ちた。 『あなたが来るのをずっと待ってたわ。最後の最後まで』  彼は県外の病院へと移ったそうだ。転院先は書かれていなかった。ナースも口止めをされていたのか曖昧に濁して教えてくれなかった。  一つの揺らぎが、私からすべての機会を奪った。自業自得で本当に情けなくて、私は最低だった。  彼の顔が何度も脳裏に蘇って、それでも笑って彼は私のことを許してくれた。  その優しさが、当たり前でないと気づけなかった罰当たりだと思った。
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