赤の花火が消える前に

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「リリー」  その凛とした声に私はガバッと後ろを振り返った。  十年前よりも落ち着いた表情、高くなった背。はっきりとした顔立ち、優しい瞳、匂い、すべてに覚えがあった。 「……怜?」  やっとの思いでその名を口にした瞬間、彼はあの頃のように優しく笑った。 「長い間、待たせたね」  嬉しいのか、びっくりしたのか、何なのか。分からないけれど強い感情が、ぶわっと胸から溢れだして、涙が滲んだ。  フィナーレの花火は、まだ。 「……怒ってっ、ないの?」  あの日のこと。私は最低だった。 「怒ってなんかないよ。毎年俺とばっかり見てたってつまんないだろ? それよりも、それまでずっとリリーが俺の側に居てくれたことに感謝してる」  ほらまた。笑って彼は私のことを許した。 「だって、私……。最低だよ……」  彼の優しさに、付け込んでる。 「良いんだよ。それが普通なんだよ。リリーは、十分優しいよ。そんなことのために、後悔しているんだから」  堪えきれなかった涙は大粒の滴となって頬を伝っていった。  彼が優しいから。それと、 「……もういいよ」  そう言うと彼は首をかしげた。
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