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「怜の、お兄さんなんでしょ……?」
彼は、驚いたのか目を大きく見開いた。
高くなった背も、落ち着いている表情もすべて、少しの違和感は全部この“十年間”で変わったことなのだと納得することができた。
でも、ひとつだけ。たったひとつだけ、私の中で確かなものがある。私以外の誰も知らない事。
私の名前は向坂悧々維(さきさかりりい)
「彼は私のこと、“リリ”って、呼ぶの」
ヒューーー────
バーーーンっ。
大きな花火がうち上がった。それはどんな花火よりも高くて、どんな花火よりも素敵な、
「赤……」
フィナーレの、花火。
丁度東京タワーの上の方に、花火がかかった。
「本当ね、髪飾りみたい」
『家族と一度だけ、もっと近くで花火を見たことがあるんだ。フィナーレの真っ赤な花火が、一番高く上がって、それがちょうど東京タワーに被ったんだ。まるで髪飾りみたいだって思ったのを鮮明に覚えてる』
いつかの彼の、記憶。
すると私の斜め後ろから、深い溜め息が聞こえた。
「本当に、君達には敵わないよ」
彼──怜のお兄さん──は片手で顔を隠した。
「怜はずっと、君のことを想ってたよ。死ぬ間際までずっと」
ずっとずっと、お互い会えない時間の方が長くなってしまったけれど、それでも私達、まだ繋がっていた。
「最期に、怜は俺に頼みごとをしたんだ」
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