喋りだすメガネ

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 もっさり男のいつもの生活なら身についている。  朝起きて、身支度して、バスに乗って出社する。  その繰り返しだからだ。  メガネだけだと身支度も何もないから、そのまま 人の詰まったパンパンのバスに乗り込む。  壊れたメガネが宙に浮いている状態なのに、他人が気にする様子はない。  ――― どんだけ疲れているだ日本人 ―――  面白い現象だが、この場合、メガネの立場としても同情しておくのが正解だろう。  知り合いに会うこともなく、顔見知り程度はいるであろう同じバスの乗客とアイコンタクトをすることもなく、会社に到着した。  ふわふわと宙に浮きながら、社内に向かう。ここからは事態が一転した。 「おはようございます、鈴木さん。」 「おっはよー、スズキ―。」    出会う人、出会う人に声をかけられた。  メガネが宙に浮かんでいるだけだが、もっさり男と認識されているようだ。 ――― どんだけ間違った存在感を所持していたんだもっさりメガネ ――――  ちょっとだけ呆れながら、メガネは自分のデスクを目指した。が、途中で、女性に捕獲された。 「ちょっと鈴木くん、どういうこと?」 ――― おっ、いきなり確信突きますか。そりゃそうだよねー、メガネだけ浮いてたら突っ込むよねー ―――  と、思ったが、女性が言いたいことはそういうことではないらしい。 「鈴木くんが使い込みをしたといって、大騒ぎになってるのよ。」 ――― えー、うそぉ。このもっさりメガネ、真面目だけが取り柄よ?使い込みなんて悪いことができる度胸なんてないよ? ――― 「鈴木くんがそんな人でないことは、分かっているけど。」 ――― おおっ、美人さんに理解して貰えて嬉しいよ。よかったな、もっさりメガネ。―――― 「二人のカンケイがもたらす勘違いでなければ、鈴木くんは真面目なヒトだもの。」 ――― そーそー、鈴木くんこともっさりメガネは真面目が取り柄ですよーっと、…って二人のカンケイってなによ ――― 「鈴木くん、ベッドの中では凄かったりするし、私の知らない姿があるかもしれないし…。」 ――― ちょっーっと、待てよ鈴木―、お前、なに?オレの知らない間に?え、ナニ?こんな美人さんと?えっ!!!!!!―――
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