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「ここで後追い自殺ってのもいいよね。」
藤原がどこかへ行っちゃってる血走った目で言う。
「ほんとはアナタを鈴木から奪いたかったんだけどね。」
じりじりと距離を詰めてくる藤原は、人間に見えなかった。
「お金を手に入れて、鈴木を消して、アナタを手に入れたかっただけなんだ僕は。」
口にしている言葉も、人間離れしていた。
「仕方ないから、鈴木は自殺、使い込みも鈴木、アナタは後追い自殺という方向でひとつお願いします。」
簡単に自分の勝手を擦り付けてくる藤原の言葉は、罪悪感というヌルつきもなく、業務連絡でもするようなのに妙に現実味がなかった。
「なにを言って…。」
「ほら、窓から飛び降りてくださいよ。それで万事解決です。」
――― メガネ無視ですかー?オレ、ここにいますけど? ―――
藤原は、手に入れたかったアナタを、いとも簡単に窓際に追い詰めた。
――― そういえば昨日も簡単に線路に落としてくれたんだった。飲みに行こうって誘われたからって、気軽についてってはいけないタイプだコイツ。でもなー、 美人を殺されても嫌だし、だからといって濡れ衣を着せられたまま犯人である藤原に死なれるのも嫌だし ―――――
どうしようかと迷っているメガネの前で、藤原は追い詰めた美人の体に手を伸ばした。
このままでは殺られる、という瞬間、メガネは藤原の後頭部に全力でぶつかってみた。
ちっぽけなメガネでは力を加えることができる面積は限られる。結果、バランスを崩した藤原だけが窓から転がり落ちた。全力でぶつかったメガネも一緒に落ちた。
「鈴木くーん!!!」
美人の叫び声に見送られながら。
大げさに落ちていく藤原だったが、会社があるのはビルの三階だ。
確実に死ねるほどの高さはない。
美人の叫び声にわらわらと集まってきた社員たちの目に映ったのは、適度なダメージを与えられた藤原の姿だった。
「鈴木がぁ…鈴木がぁ…。」
ブツブツと呟きながら血を流す藤原の姿を、社員たちは、それぞれの思いを抱いて見下ろしていた。
メガネはといえば、藤原の下敷きとなり、完全に事切れた。
後日、メガネにより意図せずして行われた復讐は尾ひれや枝葉など様々なものがくっついて見事なホラーとなるが、それをメガネが知ることはなかった。
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