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第一章:遭遇
1
「お疲れ様でしたー」
自宅から歩いて十五分の所にあるコンビニ。俺は、そこからこっそりと客に分からないように外へ出た。
時間は朝の九時を少し回ったところ。ちょうど朝のラッシュ時が過ぎて、引き継ぎが終了した時間だ。
「ふぁっ……あぁーっ……」
俺は少し涙を滲ませながら、大きな欠伸をする。
このコンビニの夜勤専門バイトで働き始めて、もう一年ほどになる。長いような短いような、あっという間の時間だった。
だから、この時間独特の住宅街の雰囲気――正社員は出社し学生は登校、残るは主婦ばかりで静まりかえった独特な町並み――にも、かなり慣れてきた。
「家に帰ったら、また少しゲームでもするかな……」
自宅までの道のりを、これから昼間での時間を潰す方法を考えながら、ぶらぶらと歩いて帰る。
これから家に帰って夕食、少し時間をおいて昼頃に就寝、そして夜の十一時から始まる夜勤の為に夜の七時から八時頃に起床する、という日常を送っているのだ。
なんの代わり映えもしない毎日、好き好んでこんな道を選んだわけではないが、それなりに気楽な毎日に、充足感こそ無いものの、何となく慣れてしまっている。
「いつからこんな生活になったんだっけか……」
かつての俺をボンヤリと思い出した。
それは、一年と少し前の話だ。
俺の名前は「吉沢博人」。二十五歳。さっき触れたように、普通のフリーターをしている。
十八歳で普通に高校を卒業して、普通の三流大学に入学。普通に卒業して普通にそれなりの規模の会社に新卒入社した。
会社で泊まりの残業をしている時に親しくなった女性と付き合い始めたのもそれくらい。恐らく、平凡な普通の生活をしていたと思う。
だが、そんな時、社内で持ち上がった騒動に巻き込まれて、結局退社の道を選ばざるを得なくなったのが二十四歳の春頃だった。
その日以来、人間関係は全て清算して友人や彼女とも別れ、引っ越しもして、全てをやり直すつもりだった。
しかし、二十四歳かそこらで出来ることと言えば数少なく、かといって蓄えがあるわけでもない。結局は食う為にフリーターで殆どの時間を費やす生活になってしまった。
悔いばかり残る人生だが、今は何とか生きていかなければならない。
その為だけに、働いているようなものだ。
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――以降は、本誌にて!
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