夜行列車は僕たちを乗せて走り続けるのだった

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寝ていた僕は、身体をギュッと抱きしめられる感触に驚いて目を覚ましたのです。 これはいわゆる金縛りかと思ったのですが、どうやらそうでは無いらしく、何やらマシュマロの様に柔らかい感触と、ちょっと高級な石鹸の様な甘酸っぱい匂いに包まれています。 窓から差し込む月明かりの中で見えたのは、クラスメイトの吉川櫻子さんの顔だったのです。 彼女は寝ている僕のお腹に股がっていました。 貞操の危機というよりも、生命の危機と言える様な、いわゆるマウントポジションと言う状態でした。 吉川さん、どうして僕の寝台に?? 混乱して、そんな風に叫びそうになった時、彼女は僕の口を細くて長い華奢な指で押さえると小さな声で静かにと言ったのです。 僕は通っている高校の修学旅行の為に、今は夜行列車に乗っており、車中で一泊して目覚めた頃には目的地である京都に着く予定になっています。 腕時計を見て見ると、まだ午前零時を少し過ぎたばかりです。 普通に考えてみれば、テンションの上がってしまう修学旅行と言うイベントで、こんな時間にグッスリと寝ているのは、友達がもともといない僕くらいのはずです。 そんなボッチな僕の動きさえ吉川さんはしっかりと抑え込むと、僕が体に掛けていた薄い毛布に潜り込んできたのでした。 「見回りの先生が来ているから匿ってちょうだい」 僕の耳元に唇を近づけて吉川さんはそう囁きました。
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