夜行列車は僕たちを乗せて走り続けるのだった

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耳にかかる息がくすぐったくて、思わず、あふっと声を洩らしてしまいましたが、そう言われて僕はやっと状況が理解できたのでした。 ボッチで早々に寝込んでしまった僕とは違い、吉川さんは別の車両にある女子生徒専用の寝台車両から引率の先生たちの目を盗んで男子生徒ばかりの寝台車両に何人かで遊びに来たのでしょう。 そして、見回りの先生ががやって来たことに気がついて、吉川さんは手頃だった僕が寝ていた寝台に飛び込んで来たのだろうと予測できました。 「悪いごはいねが~、悪いごはいねが~」 通路と個人の寝台を仕切る薄いカーテンの向こうを、まるでなまはげの様に教師が通っていくのがわかりました。 短い時間なのだけど、毛布の中で吉川さんと密着している間は永遠の様に感じられて、彼女の心臓の音をなんとなく数えてしまった。 「どうやらバレずに済んだけど、先生が女子の車両の方に行ったからもどるにもどれない」 困った様にそう言いながら、吉川さんは毛布から顔を出したのです。 月明かりに照らされた彼女の顔は青白く、まるで昔のモノクロ映画の主演女優のようです。
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