夜行列車は僕たちを乗せて走り続けるのだった

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むかしロシア革命の時に亡命者がたくさんやって来て定住したと言う僕らの地元では、何代か前にロシア人の血が入っていると言うのはそう珍しいことでは無いのだけれど、吉川さんほど外国人寄りの人も珍しく、学校の中でも評判のべっぴんさんだったのです。 僕はどちらかと言えば、校内カースト最下層に位置する存在であります。 特に親しい友人もいなければ、部活動をしているわけでもなく、教室の隅で一日中机に突っ伏している様な尖った存在でもありませんでした。 当たらず障らず、無難に要領良く社会の荒波を単独で乗り切って行くことを信条にしていたのです。 そんなベストオブザ空気っを自称する僕にも恋心があっったって誰の迷惑になるわけでも無いだろうと思います。 告白したり、付きまとったり、ストーキングしなければ問題無しのはずです。 だから僕は吉川さんとずっと同じクラスでありながら、ほとんど会話らしい会話をしたことがなかったのでした。 夜行列車は速度を落とさず走り続けています。 走り続ける列車の音は意外とうるさくて、走行する為の振動も重なって、よくよく考えてみれば、吉川さんが飛び込んでくるまでよく寝れていたものだと自分自身に感心してしまいました。 もちろん今となっては、狭い一人用の寝台の中なので、僕の体の上に重なっている吉川さんの重みとそれ以外のいろんな柔らかさや、甘美な芳香の為に寝られないと言うのも当然でしょう。 「そう言えば五所川原くん、重くない?わたし、ズレようか?」 「いいや、ぜんぜん問題ないよ。むしろ、そのままでいいと言うか、そのままでいてくれた方がアリガトウゴザイマス」 僕がそう言うと彼女は笑うのでした。 「何か日本語が変だけど、大丈夫ならいいわ。そう言えば、五所川原くんとはずっと同じクラスだったけど、あまり話をした事はなかったわよね。じゃぁ、私が戻れる様になるまで、何なら朝までお話をしましょう。そうしましょう。夜はまだまだ長いものね」 吉川さんはそう言って僕の首に腕を回すと、耳元に唇を近づけて小さな声で囁きながら話し始めたのでした。 僕は彼女の身体を両腕で抱きかかえる様にして、彼女の言葉に耳を傾けるのです。
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