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「お、旦那に逃げられた妻!労しいねえ」
そう言って照が、かかか、と笑う。
「もう!もう!静流先輩も何とか言って下さいよ」
「うさぎ柄だと何でガキなんだ?」
「ちょっ…そこじゃないです!それでフォローしたって顔しないでください!」
…という事情により、歩夢は自主学習を真たち男子組と行うことに抵抗を覚えるようになり、秘密の図書室に見守りをたてずに一人で入ることが多くなった。
一人で入る一番の理由は、一人の空間の方が呪文をみつけたりするのに集中しやすい事と、その過程で得られる楽しさにみせられているからだったが、それが危ない判断だという事を、歩夢はすぐに知る事になる。
放課後、歩夢が一人で秘密の図書室に入っていると、辺りが急に薄暗くなり、気の流れが変わる。
歩夢は、出入口のあるはずの場所をみやる。
しかし、そこには黒い壁があるだけだった。
薄暗い空間に一人取り残された歩夢は、何が起こったのかを悟る。
本が何者かによって閉じられたんだ――
燃やされたりしたらどうしよう――
歩夢の脳裏に最悪の事態が浮かぶ。
燃やされないですむとしても、このまま出られなかったら、餓死もあり得る。
トイレもないし、人間としての尊厳もなく一人寂しく死んで行くなんて事になったら――
歩夢は泣きそうになるのをこらえて策をねろうとするが、涙は大粒の雫となって次々と零れ落ちてゆく。
真、助けてよ――
歩夢が三角座りをして組んだ膝に顔を埋めていると、ふ、と空間に光がさした。
歩夢が光のさす方を見上げると、そこには照の姿があった。
「大丈夫か、でてこられるか」
照が、そう言って労るように歩夢に視線を向ける。
本から脱した歩夢は、照の胸の中で泣いた。
そうして十分ほどが過ぎた頃、照は、泣きやんだ歩夢に向かってその身に起こった事を説明する。
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