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校長は、おもむろに、手にした三角帽を女子生徒にかぶせる。
「あ、何か映画で見たことある」
そう言って目を輝かせて麗子を見遣った歩夢だったが、彼女は緊迫した面持ちで壇上の女子生徒を見ていた。
正確には、女子生徒にかぶせられた、帽子を。
歩夢は、何だろうと思いながら、しゃべりだすでもない三角帽を見つめた。
校長は、女子生徒に何やら一言言って、帽子をとる。
「次に参ります」
司会の教師がそう言って次の女子生徒を壇上に呼ばう。
それの繰り返しだった。
そして、麗子の番が来る。
彼女も、帽子をかぶせられる以外は特に何をされることもなく席に戻ってきた。
「西野歩夢」
自分の番がきて、歩夢はあたりをきょろきょろみやりながら壇上にあがり、椅子に深く腰掛ける。
そして、歩夢の頭にもあの三角帽がかぶせられる。
すると、一瞬にして館内にざわめきがおこる。
歩夢が予想外の出来事に口をあんぐりあけていると、教員たちが何やら集まって話し合いだした。
歩夢は、いつまでも脱がされない帽子のつばに視線を向ける。
茶色かったはずの帽子は、純白に変わっていた。
さすがにこれは何かあると悟った歩夢は、ここで初めて青ざめ、教員たちの動きを見守る。
「黒色に変わるはずでは?」
「学園規範には、色が変わった場合、と書かれている。現に変わったのだから、三家に名乗りをあげてもらうべきでは?」
そして、校長が深刻な面持ちで歩夢の隣に来て言った。
「西野歩夢さん。この儀式は、魔女を見いだすためのものです。この帽子は、魔女がかぶると黒色に変わると言われています。しかし、実際は、自分は特別でも異質でもないことを知らしめ、戒めるための、通過儀礼のようなものだったのです。ですが…」
そう言って校長は困惑した表情をする。
確かに、自分を育ててくれた母方の祖母は魔女と呼ばれていたけれど、と、歩夢はぼんやりと思った。
そんな歩夢をしばらく哀れむようにみつめたあと、校長は言った。
「三家に名乗りをあげてもらいましょう」
それを合図に、司会の教師が、「三家、前へ」、と言って館内をみやる。
再び館内にざわめきがおこる。
そして、三人の男子生徒が壇上にあがる。
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